両方の手のひらを胸の前で合わせて、ほほ笑みながら「ナマステ」してみましょう。同じ動作、そしてあなたのものをはるかに深く高く超えるほほ笑みが返ってきたら、そこであなたは迎え入れて頂いたという証。もうあなたは彼らの友人であり、隣人であり、時に家族の一員でさえ、あるかもしれません。一旦親しくなった時、これほど人なつこく接してくれるひとびとも珍しいのでしょう、ネパールにおいでた たくさんのツーリストが、次からは友人として知人として家族として、何度もこの地に戻って来ます。
90以上の民族語を有し、その民族も細かく分けると100を超えるネパール。山岳国で自由な往来が自然に制限されていたからこそ、民族固有の伝承信仰やそれにまつわる様々な祭祀、文化等が昔ながらのまま息づいています。さまざまに制約や困難が多い土地で、それぞれの民族が与えられた条件の中でいかにフィットして生きてきたかを垣間見るだけでも、ネパールを深く知るには十分、いえ、それこそが真のネパールの姿であると言えるでしょう。
トレッキングで山道をいけば、トラックやバイクが入れない土地では今でもロバやウシに荷を積んで、もくもくと荷運びをしているキャラバンに出会います。そこでは農耕具を装着したウシが畑を耕し、壊れた農具は町の鍛冶屋(!)が手仕事で修理をしています。人や物の運搬には牛車が活躍し、女・こどもが水場から桶で水を運び、夕食に招かれたお宅ではかまどでこうこうと燃えている薪を目にすることでしょう。中世生活のオープンライブかと錯覚するような、昔ながらの生活風景がそこにはあります。
一方で街の生活は、輸入品がたくさん入ってくるようになって表向き近代化されているように見えます。ところがそこに住むひとびとは、そう簡単には変わりません。それどころか自分たちが守り育ててきた信仰や祭祀、文化を残そうと、やっきになっている感すらあります。信仰心の強いネパールでは、古来から信じてきた仏教やヒンズー教の神に今でも日夜祈りを捧げ、かつての支配者であり、宗教への帰依者・保護者としての役割も担っていた王族をあがめ、このコンテクストの中で育んできた幾多の祭祀事例、祝祭日、記念行事等々が、古代のフォーマットそのままの姿で祝われています。
ネパール人の人なつこさを示すエピソードとしてよく知られるのは、知り合いになるとすぐに自宅に食事に招かれる、というものでしょうか。豊かだろうがそうでなかろうが、とにかく自宅で食事をともにしようと誘われます。お邪魔して一、二回食事をしてしまえば、もうあなたはツーリストではいられません。彼らにとってあなたは大事な客人であり、友人知人であり、家族や親族の一人。かたくなに旅人であり続けるのはもはや難しい、と感じることでしょう。
そうしたひとびとに出会うのに一番簡単な方法は、とにかく自分で歩き回ってみること。宿の周りの街歩きでも、観光地への往復でも、もちろんトレッキングでもOK。地元の旅行代理店などは街歩きツアー等も開催していますので、それに参加してみるのも一つの方法でしょう。
ネパール人を訪ねてくる、ちょっとあり得ないほどのリピーターの数が、ツーリストのみなさんの「こころに残る」旅の行き着く先なのかもしれません。